【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】光る苔

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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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【ほん怖】光る苔

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日没後、電池の消耗が心配で、
懐中電灯を長時間使う気にはならなかった。

宿営地まで、
まだ2時間も歩こうかという状況ともなればなおさらだ。

何となく思い出した話の真似をして、
夜光性の苔をむしり、
前を歩く仲間のザックの網状のポケットに押し込んだ。

拍手[2回]

低い山の森林でよく見る苔だが、
夜歩かなければその光を見ることは出来ない。

僅かな光を捉えて紫に光る苔が目の前にあれば…
という程度の考えだったが、
何となく思い出した話というのは、
昔、南の島に出征した日本の兵隊さんが密林を歩く際にも、
このように光る苔を利用したというだけの事だ。

なんとなく愉快な気分になり、
数分後には全員が同じ事をしていた。

目の前の紫色が歩調に合わせて揺れ、
いつしか皆の歩調が揃っていて、
それに気付いた俺は、
子供じみた愉快な気分を味わっていた。

その日のパーティーでは、
俺の位置は行列の最後から二番目。

パーティーで歩く場合、
最も気楽でいられる位置だった。

歩くリズムに身体が馴染むと、
心が落ち着き、
時間や距離の感覚が失われ、
身体を動かしつづける快楽に浸るような感覚になるが、
その時もそんな感じだった。

ふと気付いたとき、
背後の仲間の気配はなかった。

声をかけ、パーティーを止め、見回し、耳をすまし、
毛穴まで開いて気配を探した。

少し戻ろうという事になり、
今度は俺を先頭にして、今来た道を引き返した。

そして数分、前方から誰か来る。

立ち止まり、待った。

彼だった。

闇で目が利かず、
顔を確認したのは本当にすぐ近くまで来た時だった。

彼はそのまま素通りしようとする。

さっきまでの俺と同じように、
歩くリズムに馴染みきった身体が欲するままに足を運び続ける。

誰かが声をかけると、彼は立ち止まり、
状況を把握できていない目で俺たちを見つめた。

彼はずっと、
俺のザックに挟んだ夜光性の苔の光に従って歩いていた。

俺のザックを確認するが、
苔はどこにもない。

声をかけられるまで俺のザックで光る苔だけを見て歩いていたと、
彼は主張する。

だが、彼の前に俺は居なかった。

立ち止まった彼の足元に、
紫に光る苔が落ちていた。

生えているのではない。

落ちていた。

彼はそれに導かれていたらしい。

翌日、山を歩いていると、
靴紐に挟まった苔があり、
俺はそいつを笹薮に捨てた。

下山し、帰宅して荷物をほどくと、
邪魔なのでたたんでいたウェストベルトの折り返しに、
笹の葉と一緒に苔が挟まっていた。

窓を開け、苔と笹の葉を庭に放った。

それからしばらくして、庭の片隅に紫に光る苔を見つけた。

平野で自生するような苔ではない。

放り出し苔が落ちた場所とも違う。

が、ともかく紫に光る苔が庭に居座った。

もう10年以上、
今でも苔はそこで光り続けている。

さすがに笹は生えてこなかった。

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