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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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おれは東京生れの横浜育ちなんだが、
オフクロが富山県出身者でね。 親戚が富山に大勢いるんだ。 その中に、オフクロの弟で、 絵に描いたような山男がいるんだよ。 おれや従姉妹は『ヤマの叔父さん』と呼んでいるんだけど。 寡黙で、優しくて、 日に焼けてマックロで、お人好しで…。 だけど、山に入ると猿みたいにすばしっこい人。 おれはヤマの叔父さんが大好きだった。
オフクロはおれが結婚した次の年、 病気で亡くなってしまった。 葬式の時は、叔父さんは大泣きしてくれた。 オフクロが一番可愛がっていた弟だったそうだ。 何年か前、ヨメさんと一緒に、 叔父さんのうちへ遊びに行く事にした。 電話にでた叔父さんは喜んでくれて、 『じゃあ今回は剣岳に連れていってやる』 と言った。 「えっ、大丈夫ですか、オレみたいなシロウトでも?」 と尋ねると、 叔父さんはボソボソと、
『剣は優しいヤマだ、オレと一緒なら大丈夫』 と答えてくれた。 おれはヘタレのくせに山男に憧れていて、 あの美しい剣岳に登れるなんて!猛烈に興奮した。 だけど、明日は富山に旅立つって云う前の日、 ヨメさんが 「登山は嫌だ」 って言い始めた。 「何でだよ!ヤマの叔父さんがせっかく連れて行ってくれるんだぞ!」 おれはヨメさんを詰問した。 ヨメさんは最初、言い渋っていたのだが、 おれの剣幕に押され口を開いた。 「アンタがヤマの叔父さんと電話で話していた時…。 剣岳に連れてってくれるのワーイ!って大騒ぎしている時ね。
私の耳もとで、『ヤメトキナサイ』って囁く声が聞こえたんだよ…。
あれ、お母さん(=おれの)の声だった…」
結局、富山に遊びには行ったが、 ヨメさんに月のものが来ちゃったって理由で、 剣岳は諦めた。 登山予定日だった翌日。 おれたちはオフクロの本家でお世話になったのだが、 従姉妹がおれに新聞を差し出して来た。 そこには『剣岳で落石事故。登山者2名死亡。』と云う記事があった。 おれとヨメさんは、その後いろいろあって別れた。 数年後。 オフクロの法事でヤマの叔父さんに会った。 おれが話し掛けても、叔父さんは「ああ」とか、「おお」とか、 ボソボソ酒呑んでただけだったが、 「今度こそ剣岳に連れて行って下さい!」 とお願いしたら、 「ああ。…でも、またお前のオフクロに叱られるかも知れんねえ」 と答えて、不器用に笑った。 おれは叔父さんに、 剣に行かない理由を話していないんだけどね。 別れたヨメさんはなおさらだ。 叔父さんの家の電話番号さえ知らないんだから。 今思うと、おれたちは剣に行っても、 遭難しなかったと思うよ。 叔父さんが一緒だしね。 ただ、オフクロが心配して、 一寸でしゃばってきたって思ってるんだ。 …母さん、ありがとね。 PR コメントを投稿する
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