【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】母さんの声

忍者ブログ
【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【ほん怖】母さんの声

スポンサーリンク


おれは東京生れの横浜育ちなんだが、
オフクロが富山県出身者でね。

親戚が富山に大勢いるんだ。

その中に、オフクロの弟で、
絵に描いたような山男がいるんだよ。

おれや従姉妹は『ヤマの叔父さん』と呼んでいるんだけど。

寡黙で、優しくて、
日に焼けてマックロで、お人好しで…。

だけど、山に入ると猿みたいにすばしっこい人。

拍手[1回]

おれはヤマの叔父さんが大好きだった。

オフクロはおれが結婚した次の年、
病気で亡くなってしまった。

葬式の時は、叔父さんは大泣きしてくれた。

オフクロが一番可愛がっていた弟だったそうだ。

何年か前、ヨメさんと一緒に、
叔父さんのうちへ遊びに行く事にした。

電話にでた叔父さんは喜んでくれて、

『じゃあ今回は剣岳に連れていってやる』

と言った。

「えっ、大丈夫ですか、オレみたいなシロウトでも?」

と尋ねると、
叔父さんはボソボソと、

『剣は優しいヤマだ、オレと一緒なら大丈夫』

と答えてくれた。

おれはヘタレのくせに山男に憧れていて、
あの美しい剣岳に登れるなんて!猛烈に興奮した。

だけど、明日は富山に旅立つって云う前の日、
ヨメさんが

「登山は嫌だ」

って言い始めた。

「何でだよ!ヤマの叔父さんがせっかく連れて行ってくれるんだぞ!」

おれはヨメさんを詰問した。

ヨメさんは最初、言い渋っていたのだが、
おれの剣幕に押され口を開いた。

「アンタがヤマの叔父さんと電話で話していた時…。
剣岳に連れてってくれるのワーイ!って大騒ぎしている時ね。
私の耳もとで、『ヤメトキナサイ』って囁く声が聞こえたんだよ…。
あれ、お母さん(=おれの)の声だった…」

結局、富山に遊びには行ったが、
ヨメさんに月のものが来ちゃったって理由で、
剣岳は諦めた。

登山予定日だった翌日。

おれたちはオフクロの本家でお世話になったのだが、
従姉妹がおれに新聞を差し出して来た。

そこには『剣岳で落石事故。登山者2名死亡。』と云う記事があった。

おれとヨメさんは、その後いろいろあって別れた。

数年後。

オフクロの法事でヤマの叔父さんに会った。

おれが話し掛けても、叔父さんは「ああ」とか、「おお」とか、
ボソボソ酒呑んでただけだったが、

「今度こそ剣岳に連れて行って下さい!」

とお願いしたら、

「ああ。…でも、またお前のオフクロに叱られるかも知れんねえ」

と答えて、不器用に笑った。

おれは叔父さんに、
剣に行かない理由を話していないんだけどね。

別れたヨメさんはなおさらだ。

叔父さんの家の電話番号さえ知らないんだから。

今思うと、おれたちは剣に行っても、
遭難しなかったと思うよ。

叔父さんが一緒だしね。

ただ、オフクロが心配して、
一寸でしゃばってきたって思ってるんだ。

…母さん、ありがとね。

PR

コメントを投稿する

HN
タイトル
メールアドレス
URL
コメント