【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】源流釣り

【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
【ほん怖】源流釣り

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もう40年くらい前、
中学2年生だった頃。

今でも鮮明に覚えている。

地元はとんでもない田舎で本当に山の中にあった。

友達のNと一緒に源流にイワナやアマゴを釣りに行くのが楽しみで、
週末の度に夜明けから夕方まで山奥で釣りをしていた。

五月の初め、前日にNと約束をしていた俺は、
まだ暗いうちに沢の入り口でNを待っていた。

いつもならNが先に来ているくらいだったのに30分待ってもNは来ず、
不安になってNの家に行ってみた。

Nのお婆さんが家の前の畑に出ており、
Nはどうしたのか聞いてみると、
熱を出して寝ているという。

少し悩んだが、
釣った魚をNを食べさせたいと思い、
1人で源流へ登った。

提灯釣りといって、2メートル程の仕掛けを、
竿を伸ばしたり縮めたりすることでポイントへ投入する釣り方だ。

いつもならイワナが飛び出してくる落ち込みや深くえぐれた岩陰を狙うが、
何故か全く魚っ気がない。

おかしいな、と思いながらどんどんと釣り登っていく。

ゴルジュの様相を呈した沢の崖を包むようにはった木の根を伝い、
時には山に入って迂回しながらどんどんと釣り登る。

それにしても釣れない。

先行者の痕跡も無いし水量も申し分無いのに。

そんなことを考えながら仕掛けを入れていくが魚の影もない。

そうこうしているうちに
いつも折り返し地点にしている滝にまで来てしまった。

ここまで来ると大体いつも正午くらいでNと握り飯を食って一休みし、
沢を下るのだが、この日は1匹も釣れていない。

この滝より上流には一度も入ったことがないが、
どうしてもNに土産のイワナを釣りたくて、
山に入り滝の上流を目指す事にした。

滝を迂回して上流に行くにしても、
完全に原生林の森で登るのはかなり大変だった。

右手に滝の音を聞きながらブナと熊笹、
シダのしげる斜面を登って行く。

熊に鉢合わせすると大変だからたまに石で石を叩いたり、
木を叩いたりしながらどんどんと登っていったんだが、
おかしい、滝の音がしない。

耳を澄ませてみてゾッとした。

音がしない。

山の中っていうのは、
鳥の声や風で揺れる草木の音なんかで騒々しいものなのだが、
思わず自分も息を止めてしまう程の静寂だった。

驚いて耳に指を突っ込んでみるとゴソゴソと音がするから、
自分の耳が聞こえなくなったわけじゃない。

体験したことのない異常事態に、
心臓の音が聞こえるほど鼓動が早くなっているのを感じた。

やばい、戻らなくては。

そう思ったが今度は足が動かない。

動かない、というか動かし方を忘れてしまったというか、
自分が木になってしまったように立ち竦むしかなかった。

途端に怖くなり声を上げそうになったが、
金縛りにあったように体が動かず、

もう泣きそうになりながら、
腰の山刀を取ろうと必死に手を動かそうとしていた。

その時、急に後ろから頭を押さえ込まれるような力を感じ、
その場に膝をつき頭を下げた格好になった。

もう完全にパニックだったが、
足元にスーッと白い霧が流れ込んできた。

霧はだんだん濃くなっていき、
唯一動く目だけで周りをキョロキョロ見ていたが、
視界が1メートル程しかないくらい霧が濃くなった。

深く息を吸うと咳き込んでしまう程の濃い霧の中、
依然金縛りにあったように動けず、
後頭部には何十キロもの岩が乗っているような圧力を感じながら、
ひたすら助けてくれと心の中で念じていた。

すると10メートル程の前方に何かが通って行くのを感じた。

大きい!熊!?

しかし何の音もしなかった。

ただ何か大きなものが右から左へゆっくりと進んでいく。

俺は声も出せず、
恐怖で涙と鼻水を流しながらただ頭を下げて助けてくれと念じていた。

それが横切るまで時間にすると2、3分だったと思うが、
とても長く感じた。

気配を感じなくなり、
通り過ぎた!?と思った刹那、
霧がスーッと左手へ流れていき、
同時に右手側から滝の音、鳥の声、
木々が風で揺れる音が洪水のように聞こえてきた。

ふっと押さえつけられていた重みが抜け、
スッと立ち上がることができた。

その時目の前にあった光景は、
素晴らしいものだった。

水滴を付けた草木がダイヤモンドやエメラルドをまぶしたようにキラキラと輝いて、
反射した光がプリズムのように目に飛び込んできた。

痛いほど鳥肌が立って、
こんなに美しいものがあるのかと感動で涙が出てきた。

だが、それも数秒。

次の瞬間に突然、
怖いという感情に包まれて踵を返して崖を転がるように下った。

走った。とにかく走った。

あの場所にあれ以上居られない、
何故か怖くて仕方がない。

後ろから何かが追いかけてる気配がして、
止まる事も振り向く事もできずにとにかく山中を走り続け、
気がつくと沢の入り口まであと少しという所まできた!

助かった!助かった!

その時やっと走るのをやめ、
息を切らしながら空を見上げた。

見上げるとオニグルミの大木の枝に猿が10頭程もいて驚いた。

そのまま猿と目が合ってしまい、
そらせずにいた。

しばらくしてその猿が地面を指差すような動きをした。

つられて指の先の地面を見ると、
大きなヒキガエルが居て、
それを見た瞬間、視界が暗くなった。

顔を上げると日が暮れる直前くらいの暗さだった。

さっき見上げた時にはオニグルミの枝の向こうに
よく晴れた春の空が見えていたのに。

急いで帰らないと!

ヒキガエルを踏まないよう地面を確認すると、
ヒキガエルはどこにもいなかった。

そこからまた走って、
林道に止めた自転車までたどり着き、
全力でこいで家まで帰った。

家に着いて玄関に飛び込むと、両親がいて、
これからお前を探しにいく所だったといい、
かなり厳しく怒られた。

時計は夜の8時を回っていた。

いつもは滝壺から歩いて帰って夕方の4時には家に着く行程なのに、
走って帰ってきて何故こんな時間なのか分からなかった。

とにかく無事に帰れた事に安心して、
怒られた事よりも安心感で母親に抱きつきわんわん泣いた。

結局この話は両親にもNにもしなかったが、
絶対に1人であの沢に行くなとNに言って、
それからは別の沢で釣りをした。

この体験をするまでは神だの仏だの信じなかったが、
やっぱり、この世には何か別のもの、
神様なのか何なのか分からないが、
力のある物が居るのだなと思うようになった。

楽しかった思い出でも、
オチも何もなくてすみません。

ただあの時見た輝くような景色は今まで見たどんなものよりも美しかった。

自分の中では素晴らしい思い出です。

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