【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】若々しい母

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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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【ほん怖】若々しい母

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僕は一人で留守番していた。

家族は親戚も含めて車で出かけていた。

朝からいやな予感に襲われていた。

何かそわそわしていた。

僕は意味もなく家の中をそわそわと動き、昔使っていていた部屋、
今は兄家族が来たときに寝るための部屋へ来ていた。

そこに別な理由で用が有り、何かを取りに来た。

そこに携帯のタイマーが鳴り(これはセットしていたもの)、それを止める。

すると突然、その部屋にあった机の上のラジオが鳴り出す。

何もセットしていないのに。

びっくりしたけど、それを止めようとする。

拍手[3回]

電源を切っても止まらない。

ラジオを止めてもテープが回っている。

コンセントを抜いたらさすがに止まった。

ほっとして、僕は部屋を出ようとする。

扉のそばでふっと僕は振り向いた。

そこには母がいた。

出かけているはずの母。

今は60歳台も後半の母のはずが、すっきりと痩せていて若々しい母。

30歳台後半くらいだろうか。

母は昔よく着ていた美容室の仕事着を着ていた。
(母は美容師)

母は洗濯物をたたんでいた。

ちょっと前までは母も洗濯物も無かったのに。

母は僕と目が合うとにっこりと笑った。

そして突然こんなことを言う。

「○○、今度どこかいこうか?」

僕はすごくいやな予感に襲われた。

「そうだね。どこいこうか?久しぶりに運動できるところもいいね。
そうだ、前にすごく楽しかったスケートに行こうよ」

「それは無理かなあ。今日、動いていてとっても疲れたし」

「そう?じゃあ、どこにいこうか。みんなで食べにいって楽しかった、あの洋食屋さんは?」

嫌な予感はどんどんと膨れ上がり、何とかつなぎとめようとする僕。

なぜか僕の視点は、10歳頃の自分に戻っている。

子供の頃のように、母に抱き付いて話している。
(今はとてもじゃないけどそういうことはしません)

「ねえ、○○ってとっても可愛いね」

と孫の話をする母。

「車の中でもすやすや寝ていてね。あ、そうだ、●●も寝ていた」

○○は孫、●●は今18歳の甥だ。この甥のこともかなり可愛がっていた。

「大丈夫かな。体がね、がっくんがっくんと、こうやって揺れていたんだ」

体をかくかくと揺する母。

今思えば動きが妙におかしい。

そのときは普通に見ていた。

「あのときそれが気になっていて、大丈夫かなって思っていたんだ。疲れたんだろうなって」

どきりとした。

「あのとき?」

「あのとき、おじちゃんも疲れていたんだと思う。
後ろに私と●●と○○とで乗っていて、車が少しふらふらしていて、あっと思ったときには、」

突然大きな声で言い出す。

「みんなつぶれた。みんなつぶれた」

呆然と見つめる僕。怖くなかった。

ただ悲しい気持ちだった。

「お母さん・・・」

「□□、これから一人でやっていける?
□□は寂しがりやだからねえ。でも、もう一緒に居てあげられない」

「自分の心配しなよ。だめだよちゃんと家に戻らないと」

「もう無理。みんなぺちゃんこになってしまった」

淡々と語る母。

目が遠くを見ている。

「・・・、・・・。だめだよ。僕は待っているんだよ」

「ごめんね。ごめんね」

はっとそこで気がつく。

僕は一人でそこに立っていた。

「夢・・・?」

寝ていたわけでもないのに、振り向いたままそこに僕はいた。

突然、携帯が鳴った。

『□□?落ち着いて聞いて。お母さんたちが事故にあった!』

「えっ!?」

2台で分乗していたもう一台の車に乗った、兄からの電話だった・・・。

『今は静岡県のなんとか病院にいる。おじちゃんが亡くなった・・・。
ほかにも○○(兄の子)と、●●と母が乗っていたんだ。
●●はもう・・・。○○と母はまだ息がある。今夜が峠だ・・・。すぐに来てくれ』

僕は慌てて病院へとむかった・・・。

結果的には○○と母は意識が戻り、○○は大きな怪我をしたけど、その後も順調に育つ。

母もかなり危なかったが、今はもう元気に過ごしている。

僕はあのときの、若々しい母と会ったことを誰にも話していない。

あのときの母。

優しい、10歳くらいの僕を愛情たっぷりに見つめてくれる母の顔。

自分が事故に遭っているというのに、僕の前に霊となって現れ、
その現れ方も洗濯物をたたむ姿で、仕事着で、言う言葉も人の心配ばかり。

おじちゃんと●●は残念だったけど、母と○○だけでも生き残って良かった。

あの時、母はお別れを言いにきたのかもしれない。

でも、今生の別れにならないで良かった。

今もあのときのことを思い出す。

不思議と怖くなかった。

大事な事柄なのだと、強くそのときに思っていた。

悲しい、もう会えないかもしれない。

だから、全部覚えないと。

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