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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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村に住む少数の小学生たちは、
山道を4Kmも下った小学校まで毎日歩いて登校していた。 小学校までの道のりは、
彼等にとってさほど苦痛ではなかった。 年上の子供が年下の子の面倒をよく見ながら、
他愛のない会話に盛り上がり、 コロコロ笑いながら日々の登下校を繰り返す。 自動車のすれ違うのも難しいほど細い道を、
彼等は毎日歩いていた。 ある冬の初め、
子供たちはひとりの男に出会った。 男は釣り人のような格好をしていたが、
釣竿は持っていなかった。 この地域は山が深く、
道路のすぐ下は美しい渓谷、 道の反対側は山肌を削り取ったという状態で、 土砂崩れ防止のためのコンクリート補強をしていない場所もある。
子供たちが釣り人に出会ったのは、
そんな所だった。 帽子を目深にかぶった釣り人は、
どんな人相なのか判然としない。 ただ、口元の皺の具合から、
かなり年配であることは判った。 釣り人は、
登校のために山道を降りてくる子供たちをジッと見つめていた。 別に何をするでもなく、
子供たちが通り過ぎるのを道の際に立って眺めていた。 子供たちは見慣れない男を不審に思いながら、
男から視線をそらせて前を通り過ぎた。 その時だった。
子供たちに聞えるか聞えないかの低い声で、 釣り人が言った。 「帰りはゆっくり遊んできなさい」
子供たちはびっくりして振り向いたが、
どこにも釣り人の姿がない。 道路の右側は高い崖、
左側は深い渓谷。 釣り人が隠れられる場所はない。 子供たちはゾッして山道を駆け下り、
学校までなんとかたどり着いた。 幾人かの子供が先生にその話をしたが、
誰も信じてはくれなかったという。 とにかく、帰りは気をつけなさい、
そう窘められた。 その日は午前中で授業が終わる予定だった。
村に帰る子供たちは、
全員が校庭で待ち合わせをし、 揃ったところで一緒に下校する。 家までの帰路は遠い。 いつもなら全員揃ったところですぐに下校するのだが、
その日は勝手が違っていた。 子供たちが口々に言ったのだ。
「あのおじさん、
帰りはゆっくり遊んできなさいって言ってたよね」 あの不思議な釣り人の言葉が、
頭からついて離れなかった。 そこで子供たちは、
一時間だけ校庭で遊んで帰ることにした。 そうして子供たちは、
その日、全員が家に帰れなくなった。 村に続く唯一の山道が、
土砂崩れを起こしたのだ。 それはちょうど、
あの釣り人と出会った場所だった。 もし校庭で遊んでいなければ、
子供たちがその場所を通りかかる頃に土砂が崩れ、 全員無事でいなかったかもしれない。 土砂崩れの知らせを聞いた親たちは、
帰ってこない我が子を心配して、 学校やら麓の親戚やらに電話をした。 そして子供たちが全員学校で遊んでいて
無事であることが判明した。 土砂は一日で取り除かれ、
道路はすぐに復興したが、 その一週間後、
近くの渓谷で死後数ヶ月と思われる腐乱した遺体が発見された。 渓流釣りに来て、
ひと知れず事故死した釣り人だった。 ・・・実は、これはボクの母が子供時代に体験した話だ。
数ヶ月も前に死んだ釣り人が、
命を救ってくれたのだと彼女は言う。 誰にも見つけられず谷底で死に、
静かに腐りゆく釣り人の魂は、 登下校の度に聞える子供たちの楽しげな声に、
助けられたのかもしれない。 嘘か、誠か、思い過ごしか。
不思議な釣り人の言葉に命を助けられた、本当の話。
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