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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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脇の斜面に突き出た岩に座って飴玉をしゃぶっていると、
足元に何か落ちているのが見えた。 札を折らずに入れられる、大ぶりな財布だった。
難所を越えて一息入れたくなるような場所には、
時折こうした落し物がある。 俺も以前、私鉄電車の定期券を落としてしまい、 下山してから狼狽した事がある。 数枚の千円札、
貸しレコード店の会員証などが入っており、 複数の運転免許証もあった。 複数の若い男女の運転免許証。
免許証にはどれも南関東の住所が記されており、
その中の一枚に記された住所は、 俺も知っている町だった。 嫌な物を拾ってしまった。
紙幣だけを抜き取ってしまおうかという欲望には、
無論駈られた。 免許証が一枚だけだったら、
そうしていたかもしれない。 手をつけずに警察に届けようと考え、
小さなザックの奥に財布を押し込んだ。 免許証に記された住所の中で最も自宅に近いのを選び、
その土地の最寄駅で降り、 駅前にある交番に財布を届けた。
拾った場所や、そのときの状況などを説明したが、
警官は財布から出てきた複数の免許証を机の上に並べ、
見つめていた。 数日後、見知らぬ人物から自宅に電話が入った。
警察から連絡を受け、
俺の連絡先を知らされて電話してきたらしい。 当時の警察は、
安易にそうした情報を知らせてしまっていたものだが、 それで物騒な事になるような世の中でもなかった。
財布というより、
免許証を拾った事について礼を言われたが、 どの免許証について礼を言われているのか分からなかった。
見知らぬ人物からの電話は、三回。
少なくとも三枚の免許証は、
身内のところへ戻ったらしい。 電話してきたのは、
いずれも免許証の所有者本人ではなく、その家族。 拾った財布から数枚の免許証が出てきた事を、
警察が彼らにどう伝えたのか、それは分からない。 三回あった電話で、毎回言われた。 「命日に拾っていただけるなんて…」
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