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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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日中の陽だまりが、
まだそこに残っているような斜面だった。 おおらかに藤の木が枝を広げ、
薄紫の花が房を作り、 ふわりと宙に浮いているように見えた。 斜面はそのまま、静かな淵に落ち込んでいて、
奇妙に優しい空間がその場を満たしている。 時刻は夕方、そろそろ今夜の寝床を決めたい時間だ。 できれば、こんな気持ち良い場所で。
行き当たりばったりにテントを張って山を歩いていると、
気持ち良い場所というのは、
案外、少ないものだと思い知らされる。 思い知らされるからこそ、
こんな場所で一泊したくなるのだ。 風が木漏れ日をすくい上げ、
淡い光の粒を藤の花に差し出した。 差し出された光を受け止めた藤の花が、
ほんの一瞬透き通り、ふくれたように見えた。 香りが散り、花が笑った。
いや、花に顔などあるわけがない。
あるわけないが、それでも、他に言いようがない。
藤の木が、全身を揺らして歓喜していた。
とてつもなく奇妙な光景を目にしている事に、ふと気付いた。
「ねえ、ここで咲こうよ」
と、子供の声。 「ぼくはもう、10年も咲いてるんだ」
「淵に入ればね、来年から咲けるよ」
奇妙なのは、
目に映る光景ばかりではないらしい。 それでも、この場所で藤の花になって毎年咲くという考えは悪くない。
悪くない考えだが、突拍子もない。
風が斜面を吹き抜け、
ふたたび光を散らし、やがて日が暮れた。 「いつか、本当に咲きたくなったら、また来るよ」
翌朝、そう声をかけ、歩き出した。
藤の花は何も答えない。
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