【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】岩場登り

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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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【ほん怖】岩場登り

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ひんやりと湿った岩が掌に貼り付く。

まずは右手、右足。

右手中指が数ミリの突起をとらえ、指先を曲げた。

靴にくるまれた爪先が岩のくぼみを感じ、
しっかり体重を乗せると、
続いて左半身が岩を求め、動き始める。

拍手[1回]

土、枯葉、緑の匂いが混じりあい、肺を満たす。

目の前、全身を預ける岩からは、強く苔が匂っている。

気温が上がる前の、
沢筋にある岩場特有の空気がたまらなく好きだ。

登ったからといって、
達成感を強く感じるような岩を登る機会は少ない。

岩に貼り付いている「感じ」が俺にとって大きな魅力だ。

黒く湿った岩の割れ目から冷たい空気が漏れ出している。

顔を寄せると、そこだけ渇いた空気が流れ出していた。

そこに目が現れた。

人の目だ。

もろに視線がかち合った。

相手は岩の割れ目の向こう側。

大きく見開かれた誰かの目。

おそらく、俺の目も同じように見開かれ、
相手はそれを見ているだろう。

声を出したのは向こうだった。

「何これ…」

「これって何だよ」

俺は声も出ない。

下を見ると、
まだ2メートルも登っていない。

再び視線を割れ目に戻すと、
そこにはまだ目が据えられたままだ。

だが、相手は小さく叫ぶと、落ちた。

向こう側から、
指や靴などが岩にこすれ、滑る音が聞こえた。

俺は飛び降りた。

傍目には、
落ちたようにしか見えないだろう。

仲間が俺を笑っている。

そりゃそうだ。

落ちるような岩ではない。

岩の割れ目から流れ出ていた空気を、思った。

渇いたあの空気は、
沢の空気ではなかった。

もっと、地面から高く離れた場所の空気だった。

向こう側の彼は、
どれくらい落ちたのだろう。

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