【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】ダル

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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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【ほん怖】ダル

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今は昔。

頃は秋。

友人Aと上高地へ行った時の事。

休日でもあり、
そこは我々も含めた観光客でいっぱいだった。

その賑わしさをものともせず、
梓川、河童橋の向こうに見える穂高は、
相変らず凛として美しい。

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少し早い食事を済ませ、遊歩道へ行ってみると、
初めて穂高を見て感動モードに突入しているAは、
もう何を見ても“嬉しい状態”である。

「あ、さかな!」

歓声を上げ、私より先に2、3歩川に近づいたAが、
ふいにその場にしゃがみ込んだ。

「どうした?」

あわてて駆けより、
その体に手をかけると異様に冷たい。

振り仰いだAの顔は青白く、
唇に至っては紫色に近い。

「なんか、腹へって、寒いんだ…」

か細い声でAはそう言ったが、
食事をして未だ20分もたっていない。

あれほど人がいたはずなのに、
なぜか周囲には誰もいない。

「だめだ…」

そして、へたり込んでしまったAの不気味なしゃがれ声。

「ひもじいよォ…」

私はぞっとした。

違う、いつものヤツじゃない。

これはダルだ!

子供の頃、年寄から聞いたダルに違いない。

「山へ入った時、
何でもいいから食べ物は一口残せ。
山にはダルがおる。
ダルに取っ憑かれたら、
腹が減って動けんようになって死んでしまう。
そん時にな、何でもいいから口に入れたら、
ダルが離れて助かるんじゃ。
だから、山で弁当使う時は必ず一口残せ」

そう、言聞かされた。

本当か嘘か知らないし、
今までそんな目に遭った事はなかったが、
山の方へ行く旅にはなんとなく、
赤ん坊の拳大のおむすびを2つ持って歩いている。

これが多分それだ。

とにかく急いでリュックからおむすびを取出し、
Aの口の中へねじ込んだ。

中身はAが死ぬほど嫌いなウメボシだが、
構っちゃいられない。

飯団子と呼んでも良い程固められたそれを、
Aはまるで蛇のように一飲み。

「………」

人間業ではない。

恐怖に駆られた私は、
もう一つのおむすびもAの口に放り込み、
それが飲込まれるのも確かめないまま、
水筒を彼の口に押しつけた。

大きく喉が動き、
やがてAは自分の手で水筒を掴んで茶を飲み始め、
次第に飲み干す速度がゆっくりとなって、
ついにそれが止った。

「ああー、旨かった」

満足げに笑ったAの声が、
妙にダブって聞えた。

あれからずいぶん経つけれど、
そんな目に遭った事は一度もない。

今日も穂高は美しい。

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