【ほん怖】ほんのりと怖い話まとめ - 【ほん怖】なにか

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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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【ほん怖】なにか

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うちの爺さんは若い頃、
当時では珍しいバイク乗りで、
金持ちだった爺さん両親からの、
何不自由ない援助のおかげで、
燃費の悪い輸入物のバイクを、
暇さえあれば乗り回していたそうな。

ある時、爺さんはいつものように愛車を駆って、
山へキャンプへ出かけたのだそうな。

拍手[3回]

ようやく電気の灯りが普及し始めた当時、
夜の山ともなれば、それこそ漆黒の闇に包まれる。

そんな中で爺さんはテントを張り、
火をおこしキャンプを始めた。

持ってきた酒を飲み、
ほどよく酔いが回ってきた頃に、
何者かが近づいてくる気配を感じた爺さん。

ツーリングキャンプなんて言葉もなかった時代。

夜遅くの山で出くわす者と言えば、
獣か猟師か物の怪か。

爺さんは腰に差した鉈を抜いて、
やってくる者に備えたそうだ。

やがて藪を掻き分ける音と共に、
『なにか』が目の前に現れたのだそうな。

この『なにか』というのが、
他のなににも例えることが出来ないものだったので、
『なにか』と言うしかない、とは爺さんの談である。

それはとても奇妙な外見をしていたそうだ。

縦は周囲の木よりも高く、
逆に横幅はさほどでもなく、
爺さんの体の半分ほどしかない。

なんだか解らないが、

「ユラユラと揺れる太く長い棒」

みたいのが現れたそうだ。

爺さんはその異様に圧倒され、
声もなくそいつを凝視しつづけた。

そいつはしばらく目の前でユラユラ揺れていたと思うと、
唐突に口をきいたのだそうな。

「すりゃあぬしんんまけ?」

一瞬なにを言われたのかわからなかったそうな。

酷い訛りと発音のお陰で、
辛うじて語尾から疑問系だと知れた程度だったという。

爺さんが何も答えないでいると、
そいつは長い体をぐ~っと曲げて、
頭と思われる部分を爺さんのバイクに近づけると、
再び尋ねてきた。

「くりゃあぬしんんまけ?」

そこでようやく爺さんは、

「これはオマエの馬か?」

と聞かれてると理解できた。

黙っているとなにをされるか、
そう思った爺さんは勇気を出して、

「そうだ」

とおびえを押し殺して答えたそうだ。

そいつはしばらくバイクを眺めて
(顔が無いのでよくわからないが)いたが、
しばらくするとまた口を聞いた。

「ぺかぺかしちゅうのぉ。ほすぅのう」
(ピカピカしてる。欲しいなぁ)

その時、爺さんはようやく、
ソイツが口をきく度に猛烈な血の臭いがすることに気が付いた。

人か獣か知らんが、
とにかくコイツは肉を喰う。

下手に答えると命が無いと直感した爺さんは、
バイクと引き替えに助かるならと、

「欲しければ持って行け」

と答えた。

それを聞いソイツは、
しばし考え込んでる風だったという。
(顔がないのでよくわからないが)

ソイツがまた口をきいた。

「こいはなんくうが?」
(これはなにを喰うんだ?)

「ガソリンをたらふく喰らう」

爺さんは正直に答えた。

「かいばでゃあいかんが?」
(飼い葉ではだめか?)

「飼い葉は食わん。その馬には口がない」

バイクを指し示す爺さん。

「あ~くちんねぇ、くちんねぇ、たしかにたしかに」

納得するソイツ。

そこまで会話を続けた時点で、
爺さんはいつの間にか、

ソイツに対する恐怖が無くなっていることに気が付いたという。

ソイツはしばらく、
バイクの上でユラユラと体を揺らしていたが、
その内に溜息のような呻き声を漏らすと、

「ほすぅがのう、ものかねんでゃなぁ」
(欲しいけど、ものを食べないのでは…)

そう呟くように語ると、
不機嫌そうに体を揺らしたという。

怒らせては不味いと思った爺さんは、

「代わりにコレを持って行け」

と、持ってきた菓子類を袋に詰めて投げてやったという。

袋はソイツの体に吸い込まれるように見えなくなった。

するとソイツは一言

「ありがでぇ」

と呟いて、
山の闇へ消えていったという。

その姿が完全に見えなくなるまで、
残念そうな

「む~ む~」

という呻きが響いていたという。

爺さんは、
気が付くといつの間にか失禁していたという。

その夜はテントの中で震えながら過ごし、
朝日が昇ると一目散に山を下りたそうだ。

家に帰ってこの話をしても、
当然誰も信じてはくれなかったが、
ただ一人、爺さんの爺さん(曾々爺さん)が、

「山の物の怪っちゅうのは珍しいもんが好きでな、
おまえのバイクは、山に入った時から目を付けられていたんだろう。
諦めさせたのは良かったな。
意固地になって断っておったら、
おまえは喰われていただろう」

と語ってくれたのだそうな。

以来、爺さんは
二度とバイクで山に行くことはなかったそうだ。

ちなみに、件のバイクは今なお実家の倉に眠っている。

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