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【ほん怖】ほんのりと怖い話をまとめました!「怖い話は好きだけど、眠れないほど怖い話は読みたくない!」そんなあなたにぴったりな『ほんのりと怖い話』をお楽しみください。
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去年の夏です。雨の夜でした。
残業が長引いて、私は人通りもない帰り道を急いでいました。
近道の路地に入ると、年老いた風の男女二人連れが、
ゆっくりとこちら側へ向かってきました。 お爺さんが銀色の自転車を押し、
その後ろからお婆さんがお爺さんに傘を差しかけて、 自分は少し濡れながら歩いています。 譲り合ってようやく傘同士がすれ違えるような狭い路地なので、
私は立ち止まって道を譲りました。 するとお爺さんが、「××病院はどこかいな」と私に尋ねてきました。
その町に長い私でしたが、心当たりの病院がありません。
困って後ろのお婆さんを見ると、片手を拝むように目の前にした後、
私が歩いて来た方を指差し、もう一度拝むように頭を下げました。
ああ、このお爺さんはきっと少し呆けているんだな。
そういえば、着ているものもパジャマみたいだし。 そう思って私は、お婆さんの指差すまま「あっちです」とお爺さんに告げました。
「おおきにな。あっちやな。ホンマに、オカンは何さらしとんのや。
オカンおらへんかったら、ワシ道全然分からへんがな。ホンマおおきに」
ブツブツ言いながらお爺さんは歩き出し、お婆さんはまた私にお辞儀をしながら後に続きました。
きっと呆けてしまって、奥さんがついて来ている事にも気がつかないのだ。
何となく可哀想に思えて、何気なく振り返ってみると、そこにはお婆さんしかいませんでした。
お爺さんも、自転車も、どう目を凝らしても見えないのです。
その路地は大きな工場の裏手で、どこにも隠れるところはありません。
雨の夜とは言え、シルバーの自転車とネルっぽいパジャマだけを着たお爺さんを、見失うわけもありません。
お婆さんは傘を何も無い空間に差しかけて、自分は肩を濡らしたままゆっくりと歩いていきます。
その姿が路地の角を曲がって見えなくなるまで、私は怖くて動けませんでした。
後から思い出すとおかしな話です。
消えたのがお婆さんだったら、まだ普通の幽霊話で済んだのに。
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